
餓死した5歳児は「骨と皮だけの老人」のように見えたという。保護責任者遺棄致死罪に問われた碇利恵被告(40)の裁判員裁判初公判で、検察は食事をほとんど与えられず、痩せ衰えていく三男の翔士郎ちゃんの様子を克明に指摘した。「ママ友」の赤堀恵美子被告(49)の作り話を信じ、愛するわが子を死に追いやったとされる碇被告は、両目からあふれる涙を白いハンカチで何度も拭った。
「3月2~11日 食事抜き」
「4月6日 イワシ1匹半」
「4月17日 菓子、あめ玉、おかゆ茶わん半分」
検察は公判で、三男が死亡した2020年4月18日までの48日間の食事内容を詳細に説明した。自宅のごみなどから特定したという。
48日中、食事抜きは23日間。食事を取った25日間の1日当たりの摂取カロリーはわずか約40キロカロリーだったという。5歳児の必要量は1300キロカロリーとされる。
死亡時の体重は10・2キロで、5歳男児平均の半分程度。司法解剖を担当した医師の供述調書によると、通常1センチ前後とされる皮下脂肪は1ミリしかなかった。三男が死亡した時に駆け付けた救急隊員が「末期がん患者のようにガリガリで、異常だと思った」と供述したことも明らかにした。
異変は周囲にも目撃されていた。検察側は死亡の10日ほど前に碇被告宅を訪ねた知人の供述調書を朗読した。「三男はジャンパーを着込み、靴下を何枚も重ねばきしていた。痩せ細り、命の危険を感じるほどだった」と述べていた。
◇
両被告が出会ったのは16年春、子どもが同じ幼稚園だった。「こっちにおいでよ」。碇被告が赤堀被告に声をかけ、「ママ友グループ」に誘った。
碇被告は当時、新築した一軒家に、夫や3人の息子と暮らしていた。赤堀被告は碇被告宅に入り浸り、LINE(ライン)で1日に千回もやりとりすることもあったという。
「悪口を言ったママ友から裁判を起こされている。背後に暴力団関係者がいる」
「旦那さんが浮気している」
赤堀被告のうそを信じた碇被告は、親族や他の保護者と疎遠になり、夫とは離婚した。言われるがままに「裁判費用」などを支払い、給料や生活保護費までも赤堀被告に渡した。弁護人は、その総額は1370万円に上るとした。
生活が困窮する中、赤堀被告はわずかばかりの食料を碇被告に渡すとともに子どもへの厳しい「食事制限」も指示していたという。
碇被告は短い黒髪を一つに束ね、黒のスーツにサンダル姿で、被告人質問には淡々と答えた。事件前の写真と比べると、少し痩せたように見えた。弁護人は碇被告の近況をこう説明した。「翔ちゃんをおなかいっぱい食べさせられなかった自責の念から、食事を十分に食べることができなくなった」
(吉田真紀、鈴鹿希英)
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