
企業が採用活動で使うウェブ型の適性検査を巡り、就職活動中の学生になりすまして第三者が受検する「替え玉」が繰り返されていた疑いが浮上した。警視庁が22日に逮捕を発表した男は数百人から代行の依頼を受けた可能性がある。新型コロナウイルスの影響でテストのリモート化が進む中、本人確認を含めた不正対策の甘さを突かれた形だ。不審な動きを検知する人工知能(AI)の導入など、信頼性の向上に向けた取り組みが求められる。
「通過率95%以上」――。私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕された関西電力社員の田中信人容疑者(28)は、SNS(交流サイト)を通じ依頼主を探していたとされる。代行したのはインターネット上で実施される適性検査の受検だ。
警視庁によると、SNSで接触した就職活動中の女子大学生から受検に必要なIDやパスワードを聞き、適性検査のサイトにログイン。女子大学生のふりをして解答していたという。2科目で4千円の謝礼は振り込みで受け取っていた。
検査は定められた期間内ならどこからでもログインが可能で、ウェブカメラによる本人確認はなかったという。田中容疑者の口座には約300人から400万円の入金があった。警視庁は同様の不正行為が繰り返し行われていたとみている。
適性検査の開発が始まったのは1960年代。基礎学力や性格の傾向を調べる目的で主に採用面接前の選抜に使われるようになり、現在は国内で数十社が運営する。大手テスト会社の検査になると、年間の受検者は延べ200万人を超える。
就職活動に詳しいハナマルキャリア総合研究所(東京・渋谷)の上田晶美代表は「人気が集中する大手企業は、大量の応募者を適性検査で面接前に絞り込む必要がある。企業にとっては求める人材を効率的に選抜する便利なツールだ」と解説する。
会場で受けるペーパー型もあるが、コロナ下で広がったのが自宅でも受検できるウェブ型だ。2月のマイナビの調査によると、2023年卒の採用では上場企業(回答359社)の79.9%がウェブ型を実施予定とし、ペーパー型(15.4%)を上回った。

事件で浮上したのはウェブ型の不正対策の脆弱性だ。ウェブ型は受検者を映すカメラを使用するタイプとしないタイプがある。使わない場合はIDとパスワードが分かれば第三者でも受検でき、容疑者による代行受検を見抜けなかった。
カメラを使う場合は、運営側が受検者の本人確認をしたうえで不審な動きがないか監視する。しかし警視庁によると、容疑者はこのテスト形態でも、学生に付けさせたイヤホンを通じて解答を伝える不正行為を行っていた。
適性検査の不正行為はかねて懸念されていた。就職情報大手ディスコ(東京)の大学生への調査(複数回答)によると、「自分の試験で不正の経験がある」という回答は8%、「知人や友人がやっていた」も30%を占めた。

人材コンサルティングのヒューマネージ(東京・千代田)が22年5月、企業の採用担当者210人に実施した調査によると、ウェブ型の適性検査で不正行為への懸念が「ある」と答えた割合は57.1%。21年12月の調査に比べ13.3ポイント上昇した。
「1社4000円」「即日対応可能」。SNS上では、適性検査の代行を請け負うとうたうアカウントが複数確認された。警察幹部は「今回の事件は氷山の一角の可能性がある」と指摘する。
ウェブ型の試験・検査は経費や時間の節約につながり、実施者と受ける側双方にメリットがある。機能を維持するためには、実力を適切に測れるというテストの信頼性の向上が欠かせない。注目されているのがAIによるモニタリングだ。
不正行為でよくみられるとされる不審な目線の動きやイヤホンなど受検に不必要な物体、紙をめくるといった異常音はAIで検知できる。ウェブ上で人の目で監視するのに比べ効率的だ。新たな手口をAIに学ばせることにより、検知の精度向上も図れる。
20年にオンラインで司法試験を実施した米ニューヨーク州はAIの不正検知システムを導入した。国内の適性検査や大学入試にも同様の動きがある。AIを使う適性検査会社担当者は「不正が発覚したケースはない。AIが抑止力にもなっている」と話す。
不正監視技術に詳しい東京理科大の赤倉貴子教授(教育工学)は「常時監視を容易にするという点でAIの活用は一定の効果が見込めるものの、監視技術が進歩すればそれを乗り越える手法が出てくることも想定される。不正を完全になくすのは難しく、絶えず対策の検証・見直しを検討していくことが重要だ」と語る。
(森賀遼太、小林伶)
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